あのレストランのクリエイティブと群馬の食材が出会うとき。Ode in SHIROIYA

2020年12月にオープンした『白井屋ホテル/ SHIROIYA HOTEL』。オープンから3ヶ月経ち、ホテルを軸としてさまざまなイベントを仕掛けています。
メインダイニングである『the RESTAURANT』で2021年3月4日の一日限定で企画したのは、東京ミシュランガイドで3年連続1つ星を獲得している東京広尾の『Ode(オード)』の生井祐介シェフを招いて、白井屋でしかつくれないフルコースを披露していただきました。
群馬の食材は『Ode』の生井シェフとの出会いによって、どんな料理へと姿を変えたのでしょうか。スペシャルな一日の様子をおすそ分けします。

あのレストランのクリエイティブと群馬の食材が出会うとき。Ode in SHIROIYA

『Ode』の料理を、群馬ならではのスタイルで

白井屋ホテルのメインダイニング『the RESTAURANT』のシェフ片山ひろは、監修である東京青山の『フロリレージュ』のオーナーシェフ川手寛康氏のもと、ホテルのオープンに向けて2年以上に及ぶ期間を準備にあててきました。その準備期間の中で、川手ひろシェフが信頼する国内外のシェフたちのもとで片山シェフが研修する期間がありました。どのレストランも食通を唸らせる実力派ばかりで、立地や強みも大きく違います。片山シェフは、それぞれのシェフのさまざまなエッセンスを自分の体で体験し経験値を重ね、いま『the RESTAURANT』の看板を背負っています。

そんな片山シェフにとって、川手シェフはもちろんのこと、研修でお世話になったシェフらも師匠と言える存在です。ホテルがオープンして3ヶ月、師匠のうちのひとりである東京広尾の『Ode』の生井祐介氏を招きイベントを企画しました。せっかく生井シェフに来ていただくのに、東京で食べられる『Ode』の料理を群馬で食べるというだけでは特別な一日といえど少し物足りませんよね。『Ode』のスタイルに群馬の食材を目一杯取り入れて、文字通りこの日だけしか味わうことの出来ないコースを構成していただきました。

準備期間は1ヶ月。おおまかには片山シェフが群馬の食材をレコメンドし生産者の人に話を伺いながら、双方やり取りを重ねて生井シェフが試作という流れをベースに少しずつコースを形にしていきました。もちろん、ボツにしたメニューもいくつもあり、フローはさながらシーズンメニュー開発。それを言うなればたった一日のために行い、3月14日を迎えることができました。

あの食材をこんな食べ方で? 驚きのアレンジの数々

イベントは昼と夜の二部制。『Ode』のスタッフは、前日夜は東京の『Ode』で通常通り営業を行い、当日朝から白井屋ホテルに入り早々に昼の部に向けて準備をスタート。『the RESTAURANT』のスタッフも全員キッチンに入っていましたが、はじめてのタッグとは思えないほど両レストランのスタッフがてきぱきと仕事をこなしていました。キッチン内は朗らかな空気が流れ、まるで『the RESTAURANT』の布陣がもともとこうだったんじゃないかと錯覚するほど。

イベントは昼夜ともに満席。ゲストが揃い、Ode in SHIROIYAの幕があがります。『Ode』での研修期間、ホテルオープン前の生産者ツアーとお披露目会(詳しくは生産者のもとを訪ねて知る、上州キュイジーヌの舞台裏をどうぞ)、そして今回のOde in SHIROIYAと、片山シェフと生井シェフが交わるのは3回目。片山シェフの料理に向き合う姿勢に、生井シェフはどんどん変化を感じているそうです。

「今回のイベントに来てくれるゲストも群馬の方が多く、開業当時よりも地元密着になった感覚があります。実際にゲストと向かい合って料理をする毎日は開業トレーニングとは全然違って責任も体感していますし、白井屋のシェフになったんだという実感が湧いています。」(片山シェフ)

『the RESTAURANT』はキッチンをぐるりとコの字型に囲むライブカウンター。これから始まる時間への期待のまなざしを受けながら、一皿目がサーブされました。『Ode』の名物アミューズ、「ドラ◯ンボール」です。この日のコースの中で唯一、『Ode』と変わらない味を楽しむことが出来る一皿で、お察しの通りあの国民的漫画・アニメから着想を得ており、生井シェフの遊び心が感じられます。

『Ode』の名物アミューズ、「ドラ◯ンボール」。ボールが割れるとオマール海老のビスクが風味豊かに弾けます。

真っ白の皿の上に佇むのは『Ode』のスペシャリテである「グレー(SHIROIYA Ver.)」。ニジマス〈ギンヒカリ〉のタルタルがメレンゲの下に隠れています。普段は魚のエキスを使ったメレンゲで文字通り灰色の見た目ですが、この日は白井屋の名前にちなんで白いビジュアルで登場。

「ドラ◯ンボール」の次はマリネした鯉や木の芽と合わせていただく新感覚の「新玉ねぎ」、メレンゲの下に群馬でしか味わえないニジマス〈ギンヒカリ〉のタルタルが隠れた『Ode』スペシャリテの「グレー(SHIROIYA Ver.)」、すっぽんと筍をおやきにして旨味をぎゅっと閉じ込めた「すっぽん」、山女魚が隠れているデニッシュにさくらの葉っぱの塩漬けが入ったソースが相性抜群、五感で春を感じる「山女魚」と群馬の食材がつぎつぎと新しい一面で登場します。

メインディッシュの「赤城牛」。お肉なのに、ソースがかかっていない?と思いきや、付け合わせのカーボロネロ(黒キャベツ)と卵黄の味噌漬けを、食べるソースとして肉と合わせていただきます。

どのメニューにも驚きが詰まっていたと話す片山シェフですが、中でもメインディッシュの赤城牛が特に衝撃的だったそうです。

「食べるソースのカーボロネロはもう、食べた瞬間にうっっっま!と、目が飛び出るかと思いました(笑)。僕には食べるソースとして仕立てる感覚がなかったので、本当に驚きましたね。味噌でマリネした卵黄とひたひたに旨味を吸った野菜のソテー、それだけでいける。カーボロネロの柔らかいところは本当に今の季節だけの味覚なので、この瞬間ならではの最高のものが詰まった感動的なメインディッシュでした。生井シェフのメニューは、自分が想像し得なかった形でかえってきて、アプローチがとてもおもしろかったです。ぜひ、今後の参考にもしたいです」(片山シェフ)

今回のフルコースに合わせるアルコールペアリングは『Ode』がセレクト。フランスのワインを中心に、国産ワインや日本酒なども柔軟に組み合わせています。

今回のイベントは、はじめからフルコースにドリンクペアリングもセットになっていました。アルコールペアリングは『Ode』が担当。生井シェフ自身もお酒を飲むのが好きとのことで、飲んだときにどう感じるかをいつも考えて料理とお酒の組み合わせを考えるそうです。香りだったり、食感だったり、テクスチャだったりと、お酒が好きなシェフだからこそのさまざまなフックを意図的に用意しており、ゲストに新しい出会いの提供を試みています。

ここにしかない料理を目指して

大ボリュームのコースも終盤に差し掛かり、赤城牛でお腹いっぱい!……と思いきや、〆として群馬の郷土料理、「すいとん」まで登場! 山椒のオイルをまとった『Ode』スタイルのすいとんはスナップえんどうの緑と花が鮮やかで、不思議とするすると食べられてしまうんです。余すこと無く群馬の春を詰め込んだコースを仕立てた生井シェフに、群馬の食材の魅力を訪ねました。

「群馬って海のないところじゃないですか。ネガティブに考えると川魚を使わざるを得ないとなるかもしれませんが、だからこそいつもはしない選択となるのは面白さでもあると思います。僕は魚介類が大好きで、春になったら桜えびがやホタルイカ、はまぐりなんかに目がいってしまいがちですが、そういう食材が使えない状況で群馬の食材に向き合うのは自分にとっても新鮮でしたし、固定概念が覆される感じがありましたね。」(生井シェフ)

デザート一品目は「ふきのとう」をマカロンにしてからアイスクリームに。甘さを追いかけるようにほろ苦さが立ち上がり、口の中いっぱいに芽吹きを感じる一皿。

デザート二皿目はまさかの「こんにゃく」。薄くスライスしたこんにゃくをミルクでマリネする新食感にローズマリーの香りが絶妙な組み合わせ。群馬生まれの片山シェフが一番驚いたアレンジとのこと。

群馬の食材の新しい側面を見ることができた全10品。大満足のフルコースを終えて、お客様もスタッフからも満面の笑みがあふれていました。怒涛の一日を終え、生井シェフの目には、片山シェフならびに白井屋ホテルはどう映ったのでしょうか。

「片山シェフには群馬や自分のアイデンティティの背景を料理にもっと出せる人になってほしいなと。いま出来てないという話ではありませんが、まだパーツを集めている状態だと思うんです。食材と人への解像度があがっていけば、そこを発信に料理が作れるようになると思うので、そうなったらオンリーワンじゃないですか。太刀打ちできないなとも思います。(笑)
東京って何でも入ってくるので、アプローチでいかようにも出来るんですけど、すごく弱いなと思うこともある。ここでしかつくれない唯一無二の料理には太刀打ちできないからです。そういう料理はわざわざ時間をかけてでも現地に行く理由になりますし、その可能性のある場所だと思うので期待しています。」(生井シェフ)

生井シェフからの激励の言葉を受けて、片山シェフの背筋がまたピン!と伸びたように見えました。「この一皿は片山くんしか作れないと言ってもらえるものがつくりたい。誰よりも強い思いを込めてその料理をつくったなら僕の料理になると思うし、さらには白井屋の料理になれば嬉しいです。」

イベントは3月14日に行われました。…そう、ホワイトデーということもあり、退店時にカヌレの嬉しいプチギフトが。家に帰ってからも、『Ode』の余韻を楽しめる粋な贈り物でした。

今回お越しいただいたゲストの方と食事中やお見送り時にお話しする中で、群馬にすっぽんってあるんだ、川魚でこんな華やかな食べ方が出来るんだ等、群馬の新しい魅力に対する声を聞けたと話す片山シェフ。また『Ode』を呼ぶときは絶対呼んでねと、喜びの声とともに次への期待もたくさんいただきました。『the RESTAURANT』では、食を軸にまた新たな企画を行っていく予定ですので、引き続きご期待ください。

生井祐介(写真右)

1975年、東京生まれ。高校卒業後は音楽の道を志すも、その後出合った料理に面白さを見出し、25歳から本格的な修業を始める。表参道【レストランJ】、軽井沢【マサズ】を経て、八丁堀【シックプッテートル】のシェフに就任。2017年に独立し、広尾【Ode】のオーナーシェフとなる。

 

片山ひろ(写真左)

群馬県出身。【帝国ホテル】でキャリアをスタート。その後都内のレストランでの修行を経て地元群馬にて自身のレストランを開業する。2017年、自身のレストランを閉めて白井屋ホテルプロジェクトに参画。【フロリレージュ】やベルギーの【Hertog Jan】など、国内外の名店での2年以上にもわたる研鑚を経て、白井屋ホテルのメインダイニング【the RESTAURANT】のシェフに就任。

 

text & photo / Ayumi Yagi

生産者のもとを訪ねて知る、上州キュイジーヌの舞台裏

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東京青山の「フロリレージュ」のオーナーシェフ川手寛康が監修する白井屋ホテルのメインダイニング『the RESTAURANT』。地元群馬・前橋の食材に焦点を当てつつ、それをワールドクラスのクオリティで世界に向けて発信していくという、LocalからGlobalを見据えた強い想いを込めて「上州キュイジーヌ」を掲げています。

白井屋グランドオープンを控えた12月のはじめ、『the RESTAURANT』監修の川手シェフと、これからダイニングをメインで引っ張っていく片山シェフが群馬の生産者のもとを訪れ直接食材を手に入れ、2年間の研修期間にさまざまな技術・マインドを伝えてくれたシェフたちを招き上州のめぐみをふんだんに取り入れたスペシャルディナーを振舞う、いわば師たちへのお披露目会が開催されました。全国各地から集まった師匠であるシェフたちとともに生産者から素材の魅力を伺い、それらをどのようにして渾身の一皿としてテーブルに並べるのか。この日限りの特別な試みの様子をお届けします。

『the RESTAURANT』片山シェフと師匠の川手シェフが語るこれまでとこれから

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川手シェフの監修の一環として、国内外さまざまなレストランのもとに2年にもおよぶ修行を重ねた片山シェフ。白井屋ホテル自体も5年以上の歳月をかけリニューアルの準備を進めてきましたが、『the RESTAURANT』としても実に3年近くもの準備期間を設けています。なぜ、ここまで準備する必要があったのか? グランドオープンを目前に控えた12月頭のひととき、川手シェフと片山シェフに、レストランのこれまでとこれからについて語っていただきました。